足跡

スポンサーリンク
Youtube

サリーさんが体験した怪談だよー!!

足跡 youtube

足跡

 私は、田舎生まれの田舎育ちだ。父親が九州電力に勤めていた。僻地の事務所を転々としなければ、出世できない社内の流儀でもあったのだろうか ?

 田舎といっても田園の広がる風景ではない。過疎の進んだ山間部の変電所である。家庭の事情だが、本当に何もない僻地を転々としていた。長閑も過ぎると毒である。遊び相手が自然というのも、幼少期が限界であった。

 自然と戯れる子供時代を過ごしたのならば、さぞや足腰の強い体になっていただろう。しかし、私は心臓に持病を抱えていたので、闊達に野山を走り回り丈夫な体を作ることはできなかった。

 必然的に、引きこもって、家にある本を片っ端から読むことで日々の大半を送ることになる。時代劇小説や文学全集などを何度も読むことになる。そんな部類の本が好きと言う訳ではない。家にあるから読んでいた。少女の趣味に合った本は無かったのである。

 中学生になる頃、父の事務所でバイトを始める。初めてのバイト料は、全額当たり前に本代へと消える。幸せだった。自分の読みたい本が手に入る。なんて幸せなことだろう。一度体感した幸せに私は焦がれるようになるのは自明の理である。といっても学生の身分である。バイトができるのは夏休みと冬休みのみ。休みの間はせっせとバイトをして本代を稼ぎ、他の日々を読書に費やす学生時代であった。

 夏休みになれば、当たり前にバイトが始まる。当時の私にとっては、労働というよりも本代を稼ぐ事ができる崇高な儀式のようなものだったのだろう。全く苦にはならないどころか、むしろ焦がれた。

 指折り数えた夏休みが始まり、順調にバイトに精を出す日々であった。寒村の事務所、未成年のバイトなので全く重労働は無い。簡単な書類を纏めたり、コピーやお茶くみが主な仕事だったのだが、なにせ人がいない。実は本当にやることは無いのだ。私のバイト内容は、朝夕以外は無人の事務所で、次に購入できるはずの本を夢想しながら、手元にある同じ本を読むことだった。

 夏休みも一ヶ月は過ぎようかという、暑い日のことだ。バイト先の控え室で昼食をとる。余った時間はコーヒー牛乳を飲みながら、ぼんやりとしていた。

 目の前には、灰色のロッカーが並んでいる。

 ん……。

 右端の奥にあるY.Tさんのロッカーの扉に目が止まった。それは頭の位置辺りであろうか。

 靴の跡が付いていた。

 今まで気がつかなかった。足跡は、泥付きの汚れたものだった。ぬかるみを歩いた後、そのままググッと押し当てたような跡だった。私は、嫌な気分になった。

 真ん中に、一個だけの足跡……。

 おかしくはないか ?

 ごつい靴跡であった。それも、一個だけ。

 だれかの悪戯か……。

 Y.Tさんは、本部からの出向社員。やや真面目すぎるタイプで、あまりバイトとは言葉を交わさない。どちらかと言えば、バイトを下に見ているような感じの男性だ。

 まあ、人気者ではない。だが、憎まれているようにも思えない。

 その時は靴跡の原因は全くわからないまま、休み時間が終わった。交代のバイトが控え室に入って来た。

「お疲れさん !」

「あ、ども」

私は、彼に聞いた。

「あの、あれなんすかね ?」

「え ? なに ?」

私は、Y.Tさんのロッカーを指差した。

「ほら、あれ」

「なに ? どれ ?」

ごつくて大きく、泥だらけの足跡が、見えないはずはない。

「なに、なんなの ?」

「あ、いや、あれって」

「だから、なに ?」

 何時も不機嫌なY.Tさんは、小娘の質問に猶更不機嫌になる。

 最低限度の社交性は微塵もなく、苛立ちを隠そうともしない。

 もう、止めた……。

「あ、いいっす、すみません」

 今、まさに付けられたかのような、湿った泥の足跡は、どうやら、私にしか見えていないようである。

 私は、昼食時以外でも控え室を使用しなくなった。

 それからの昼食は、近くの公園で食べた。

 Y.Tさんは、私がバイトを辞めた一ヶ月後。横領がバレてクビになったらしいと聞いた。

 横領の横領は巧妙だったらしい。内部監査も横領したY.Tさんに辿り着く前に幾つものトラブルがあったそうだ。

 後に父から聞いた話だが、幾人も聴取があり、幾人にも容容疑が掛けられ、幾人もが退職に追い込まれていた。

 内部監査がY.Tさんを特定するまでに退職に追い込まれた方々の恨みだったのだろう。

 被害者の恨みとは、会社組織の面倒くさい手続きや証拠固めを飛び越えて、ストレートな形として現れていたわけである。

 それは、僻地に逃げても逃れられるものでなかったようた。 

上記のテキストは、Youtubeで朗読している口語文とはちょっと違います

m(__)m

お願いとお約束

怪談朗読をされておられるYoutuberの方々。
サリーさんの怖い話を朗読していただけたら幸いです。
その時は、一言ください。そしてHPのリンクを貼ってください。
約束だよ!!

コメント

タイトルとURLをコピーしました