おでん伝 其の一

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今日はデブ猫おでんのお話だよー!!

【怖い話】おでん伝 – 其の一

おでん伝 其の一

おでんの話をしよう。

いや、食べるおでんではなく。

知人のEくんの同居人である猫の話だ。

名前は、おでん。見事なキジトラで、Eくんの溺愛のせいか、横綱級のデブ猫である。

寒い夜、おでんが食べたくなってコンビニに行く道で、ミーミーと鳴きながら、痩せた子猫がついて来た。

動物の本能が、Eくんの桁外れな動物好きを見抜いたのか、Eくんは、ペッ禁のマンションであるにも関わらず、当たり前のごとく、子猫を抱き帰宅。

夜中の空腹を抱えてコンビニに向かっていたことも忘れ、子猫の保護に懸命になる優しい男、Eくん。

そして、ついた名前が『おでん』

「はぁ、確かに餅きんちゃくのような体型だ」

「可愛いやろ! 福福しいゆうんか、可愛いよなぁ」

すっかり、猫バカになっているEくん。

しかし、Eくんは、「おでん」と同居することになってから、不思議な出来事が度々あったと言う。

動物たちには、不思議な感覚があると言うが、その中でも、なんとも言いようのない体験談を紹介しよう。

Eくんの深い愛情で、すくすくと太り育ったおでんは、非常に穏やかで、おっとり、のほほん。

野生っ気をすっかり忘却してしまった猫になったが、Eくんが出会って間もないガールフレンドをマンションの部屋に連れてきた時のこと。

フッー!  シャアァーッ!!

なんとも珍しいことに、おでんは、ガールフレンドに対して、派手な威嚇という、有難くない出迎えをしたらしい。

「こらっ、おでん、どないした!」

おでんはウーウー、と呻りながら、クロークの中にじわじわと入り込んで、隙間から、じっと見ていたという。

Eくんは、慌ててガールフレンドに謝ろうと振り返って、鳥肌がたった。

ガールフレンドは、恐ろしく冷たく、憎しみがこもった目で、クロークに逃げ込んだおでんを睨みつけていた。

Eくんは、驚いて言葉を失くした。

猫嫌いにしても、ちょっと、如何なものかという、凄まじい睨みつけ方だった。

「あ、あの、さ、猫、きらいなん?」

Eくんが、恐る恐る声をかけると、ころっと顔を変えたかのように、可愛らしい笑顔になった。

Eくんは、それの方が怖かったという。

「うぅん、違うよ、嫌いなんかじゃないよ、可愛いね」

いやいや、到底、そんなふうに思っていた様には見えなかった。

その上、おでんが隠れている場所が見える位置から動こうとしないし、Eくんが他所を向いている間、あの異様な目つきで隠れているおでんを睨みつけていたという。

「こら、あかん」

Eくんは、おでんに対する危機感だけではなく、なんとも、嫌な予感がぬぐいきれず、ガールフレンドと縁遠くすることにした。

連絡手段は全てブロック。

行きつけの店も変えた。

しかし。

元ガールフレンドの異常さが露見し始めた。

会社の帰り道で、Eくんから簡単に見つけられるところから、半身だけ出すようにしてじっとこちらを見ていたり、夜討ち朝駆けでの電話攻勢、真夜中にドアをノックしながら呼び掛けてきたり。

「Eくん、開けてよ、ねぇ、話しよ、ねぇ」

直接的に何かをして来るわけではなかったが、こうも続くと精神的に参っても来る。

Eくんは、ついにおでんを連れて転居した。

だが、徒労に終わる。

転居先でも、元ガールフレンドの攻撃は続いたのだ。

そして、とうとう。

Eくんは、会社から帰宅してドアの前に立った時、異様な声というか、嫌な騒音が部屋の中から聞こえてきて驚いた。

一瞬、たじろいだが、おでんの声だ!と思った瞬間、ドアをがばっと開けた。

「おでん!!」

すると、なんということか。

どこから侵入したのか、元ガールフレンドが鬼のような形相で、おでんに掴みかかっているではないか。

おでんは、激しい怒りも露わに、激しく抵抗。

引っ掻く、蹴りを入れると応戦。

異様な叫び声とおでんの威嚇が入り混じり、ぶつかり合う一人と一匹。

Eくんは、しばし、呆然としていたという。

しかし、元ガールフレンドが、おでんの首を掴んで投げつけようとしたのを見て、 ハッと我に返った。

「おでん!!」

Eくんは、元ガールフレンドを突き飛ばし、おでんを抱いた。

「出てけよ、アホンダラ!! 出てけ!」

しかし、元ガールフレンドは、髪を振り乱し、おでんから引っ掻かれた傷からだらだらと出血しながら、あの異様にかわいい笑顔になった。

「Eくん、どうしたの、その猫、悪い猫だよ、捨ててこようよ」

Eくんの腕の中から、おでんがシャアャ!!と威嚇した。

すると、元ガールフレンドの顔は鬼と化し、飛び掛かってきた。

「やめろぉっ!!」

Eくんは、思わず全力で元ガールフレンドを蹴飛ばした。

もんどり打って倒れたが、ゆっくりと起き上がり、

ふふ、ふふ、と笑いながら言った。

「Eくぅん・・・、Eくぅん・・・その猫、捨てて来てぇ・・・、ねぇ・・・」

「やめろっ! やめろっ! 出てけっ!!」

Eくんは、元ガールフレンドを掴んでドアの外に放り出した。

ばたんっ!とドアを閉めて鍵を掛け、跳ね回る心臓を押さえ込んだ。

おでんが、ドアに向かって威嚇を止めない。

見たこともない怒りをドアの向こうに投げつけている。

すると・・・、

ドンドンドンッ

「ひぃっ!!」

Eくんは、飛び上がった。

元ガールフレンドは、凄まじい勢いで、ドアを叩くというか殴り始めた。

ドンドンドンッ !

ガンッ!ガンッ!

これは、何かで殴っている。

金属製のドアが衝撃に震えている。

殺されてまうっ・・・!!

Eくんは、警察に通報した。

ドンドンッ!!

「あけてぇ・・・あけてよぉ・・・そんな猫、捨ててぇ・・・」

Eくんは、おでんを抱きしめて目を固く閉じ、震えながら警察を待った。

パトカーのサイレンの音が聞こえた途端、激しい強打の音が消えた。

「はあぁ~! 助かったぁ~!」

安堵のあまり、情けない声を上げたと言う。

ブブーッ

玄関のブザーが鳴った。

Eくんは、ドアのレンズから外を見た。

警察官が2人見えた。

年嵩と若い組み合わせだ。

Eくんは、へろへろになりながらドアを開けた。

「こんばんわ、何かありましたか」

警察官は、厳しい顔つきでEくんを見た。

「それが、襲われたんですわ!」

Eくんは、事の次第を警察官に語った。

警察官は、怪訝そうに凄い音がしていたらしいドアを見回していた。

「このドアですよね、強打されていたのは」

「はい、そうですが」

「ふん、ちょっと、こっち来て」

Eくんは、警察官に促されてドアの表を見た。

え・・・。

Eくんは、唖然とした。

破壊されそうな大音響がしたというのに、ドアに傷ひとつない。

途中から、何かを叩きつけているような音がしていたのに、だ。

「な・・・、なんや?!」

警察官は、憮然とした表情になった。

まあ、当たり前である。

Eくんは、呆然とした。

結局、事情徴収を受けたのはEくんになった。

終いには、アルコール検査や薬物検査まで。

Eくんは、心神喪失な顔つきになっていたようだ。

すると、年嵩の方の警察官が言った。

「お隣さん、いますかね」

「あ、はい、多分」

年嵩の警察官は、隣人の部屋のブザーを鳴らした。

Eくんの隣人は、保険の外交員のおばさんであったが、警察官が玄関から中に入って事情聴取を行なった。

その間、若い方の警察官は、Eくんに元ガールフレンドのことについて、何かと聞かれたが、Eくんは、まだ会ったばかりであったので、わずかな情報しかなかった。

何気に若い警察官の一言にハッとしたそうだ。

「そんな、何も知らない女性をよく部屋に入れましたね」

そうか、思えばそうだ。

Eくんは、あだ名のような呼び名だけで、フルネームを聞いていなかったことや、何処から来て、何をしているのかも、まったく知らなかったことを思い出した。

「あ~、お待たせしまして」

年嵩の警察官が戻ってきた。

「お隣さん、良い方ですね、心配なさってましたよ。酔っ払った女が狂ったように怒鳴ってたって」

「へ・・・?!」

年嵩の警察官は、すっと真顔になった。

「開けろ、開けろ、ぶっ殺す、絶対に離れないからな、と怒鳴り続けてたそうですよ」

Eくんは、全身が凍り付いた。

激しい強打の音はしていたが、そんな罵声は聞こえなかったのだ。

「何かありましたら、署の方に」

Eくんは、警察官が帰った後、部屋の中で自失していたが、おでんがEくんにすり寄って来て我に戻れたという。

「おでん、おまえ、わかっとったんやなぁ」

Eくんは、携帯を取り出して、訳の分からない元ガールフレンドのデータを全部抹消しようとした。

しかし、どうしたことか。

携帯の中に、元ガールフレンドからの着信が消えていた。

メール、メッセージ、着信履歴も、すべてが消えていた。

「なんや・・・、これ」

Eくんは、今まで悪い夢でも見ていたのか、と自信を疑った。

翌日、出会った場所だと記憶していたカフェのマスターにも聞いた。

「あ、あのさ、わいとこの店で出会うた娘のことなんやけどさ」

「え ?だれ?」

カフェには、馴染みの客や、仲間が揃っていたはずだが、誰1人として、元ガールフレンドのことを覚えていない。

いやいや、それどころか、知らなかったのだ。

何が起こったのか、見当もつかない。

おでんは、Eくんに人ならぬ何かが近づいて来ると、それでなくとも、まるまるとした横綱体型がさらに膨れ上がり、凄い勢いで威嚇するらしい。

Eくんが、殊更におでんを大切にする様になったのは言うまでもない。

おかげで、おでんは、愛され太りをつづけている。

同居人を身を賭して守った義理堅いおでんと、Eくんの不思議な話は、今後もご紹介すると思う。

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