あいつ

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今日はサリーさんが東京で体験したお話だよー!!

【怖い話】あいつ

あいつ

夜のバイトは割りがいい。

本代と生活費を稼ぐには、会社勤めだけでは間に合わなかった。

小さいJAZZクラブのバイトであったが、深夜営業なので、バイト料がいい。

マスターは、音楽好きの男で、JAZZのレコードが店内の壁一面に貼られていた。

知り合いの紹介で、18:30から雑用とホールスタッフとして雇われたのだが、なんとまあ、暇だった。

これで本当に当初のバイト料をいただけるものなのかと、不安になってくるほどの暇さ加減だ。

仕事に慣れてくると、準備も早くなる。

その分、暇が増える。

「あ、いらっしゃい」

時折、マスターと馴染みの常連客が来ると、うれしくなって、声のトーンが上がる。

これでは、まるで、留守番から解放された犬だ。

あの夜、あの客が来た夜は、11月も半ばの深夜。相変わらずの暇すぎる1日が終わりかけている時だった。

カラララ・・・ン

ドアベルの音がした。

「いらっしゃいませ」

反射的に出た声は、鮮魚店か八百屋のオヤジなみの元気な声だった。

マスターは、所用で出かけていたので、私一人で店番をしていた。

どうせ、ショット一杯くらいの客しかいないよ、というマスターのやる気なさすぎの言葉通り、
客は、やや俯き加減のまま、すぅっとカウンターの一番端っこに座って、私に向かって人差し指を一本立てた。

「あぁ、はい、ただいま」

妙だ。

顔を伏せているのではなく、私に顔を見られたくないかのように、反対側に反らしている。

こんな客、来たことあるっけ。

薄暗い店の中だったし、客の顔をじろじろと見るわけにもいかない。

私は、ショットグラスに素人な手つきでウィスキーを注いだ。

「どうぞ」

陰気な客の前に、グラスを置いた。

やはり、妙だ。

不自然なくらいに私から顔を反らしたままだ。

着古したジャケットは、所々擦り切れて穴も開いている。

髪の毛はボサボサで、どこか脂っぽい。

長いこと洗っていないような髪だ。

早くマスター、帰ってこないかな。

マスターなら知ってるだろう、と思ったが、少なくとも私が雇われてから、一度も見たことがない客だ。

黒い影を纏ったような客は、グラスの酒を少しずつ飲んでいるように見えた。

私は、見ないようにしようと本を開いた。

いつもなら、客が店にいる間の読書はマスターに止められているが、何も見ていないと、つい、客を見てしまうのだ。

ましてや、私から顔を反らし続けるほど、一人でいたいようだし。

店の中には、柔らかなジャズのメロディーが流れていたが、それと一緒に、不思議な音が聞こえてきた。

ぶつぶつ、ぶつぶつと、小声で何かを呟いている。

誰が ?

現状では、あの妙な客しかいない。

聞くまい、聞くまいと思えば思うほど、つい、つぶやきに集中しそうになる。

いけない、いけない、無視しろ、本に集中だ。

だが・・・。

あの女・・・、あの女・・・

確かに、「あの女」と聞こえた。

やばい、聞こえてくる。

あの女・・・、あの女・・・

私は、耳栓でもしたくなったが、必死で顔を書面に向けたまま、耐えた。

あの女・・・、

あの女がなんなんだ!と思った時だ。

生き残りやがって!

頭のすぐ上から、重い恨みのこもった声が落ちてきた。

私は、ドキッとして見上げた。

「ぅわぁぁー!!」

白濁した目を見開いた、茶色い渋皮のような肌をした男の顔が、私の目の前にあった。

椅子から落ちて尻餅をつき、全力でその場から逃れた。

「ぅわぁ! ぅわっ!!」

這うようにして店の入り口に辿り着いたが、左肩に、ドスッと重みが来た。

生き残りやがって・・・!

耳のすぐそばで、呟く声が聞こえた。

もう、ダメだ。

私の精神力は負けを認めて、気が遠くなることを受け入れた。

眼が覚めると、店の二階にある休憩用の狭い部屋にいた。

マスターが、黒いスーツを着崩して、タバコをふかしているのが見えた。

「あ、あぁ~、あの」

私は、慌てて半身を起こしたが、マスターは、まあまあという手振りをした。

「あいつ、店に来やがったか」

「え?」

「来たんだろ、あいつ」

あの客が、マスターの言う、”あいつ”かどうかは知らないが、おそらく、そうなのだろう。

マスターは、煙たげに目を細めて、ふーっと煙を吐いた。

「今日な、通夜に行ってきたんだよ」

「通夜、ですか」

「ああ、一応、ダチなんだけどな、飲み屋のねぇちゃんと心中ごっこしでかしてさ、 あいつだけ、成功、女は生き残って、元気に退院、 ざまぁねぇよ、ほんと」

私は、言葉に詰まったまま、マスターから差し出されたカップの紅茶を飲んだ。

「その上、なんでおいらの店なんよ、化けて出るなら女んとこじゃねぇのかっつうの」

マスターは、ふっと煙を強く吐き出して、天井に向かって怒鳴った。

「馬鹿野郎っ ! 死ぬんなら借りた金、返してからにしろっつうの !」

それから2ヶ月後、マスターは、深夜営業の酒を出す店を辞めた。

私は、わりのいいバイト先を失った。

本当に”あいつ”は、馬鹿野郎である。

お願いとお約束

怪談朗読をされておられるYoutuberの方々。
サリーさんの怖い話を朗読していただけたら幸いです。
その時は、一言ください。そしてHPのリンクを貼ってください。
約束だよ!!

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