煙草

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サリーさんの体験した怖い話だよ~ん

煙 草

煙 草


Aさんが、引っ越しをすると言う。 この話、私が東京に住んでいた頃のことだ。

Aさんは、私と同じ出版会社に勤めていたが、 離婚を機に引っ越しをすると決めた。

私とAさんは、歳は離れていたが、他の同僚に比べれば仲は良かった方だったし、 引っ越しの手伝いに行くことになった。

「1人だけだし、荷物は少ないけどね」

Aさんは、少し寂しげな顔をした。

「手伝ってくれると助かる」

離婚は、簡単なもんじゃない。

誰かがいてほしいこともあるのかな、と。

「いいですよ、手伝います」

私は、もう一名、手伝いを募った。

車の運転をしてくれるT君だ。

Aさんが、”矢野屋”のカツ丼がバイト代と言ったからだろう。

身の丈に合わない借金をして、ランドローバーを所持していた若造は、こう言う時に便利であった。

朝早くから、引っ越しを開始したが、なんと昼前に、車に積み込みが完了。

本当に荷物は少なかった。

そこから、約20分ほど走った先に、Aさんの再スタートを待つ、マンションがある。

「よぉし、部屋に運ぼう」

6階建の6階。

エレベーターから降りたら、すぐ右斜め前の部屋だった。

ふぅん・・・

よく晴れた昼少し前であったが、なんとなく、薄暗く感じた。

「ここ、ここ !」

Aさんが、鍵を開けて、意気揚々とドアを開いた時だ。

うわっ・・・。

私は、別に、禁煙派ではないし、喫煙者の家庭に育ったが、まったくもって、嫌煙家ではない。

しかし・・・。すごいな・・・。

Aさんが開けた部屋から、強い煙草の煙の匂いが溢れ出した。

それも、古くなって質が落ちてしまった煙草のそれだ。

「お、なかなか、きれいですね !!」

T君は、にこやかに言った。

「そうでしょう! 私もここしかないって思ったんだ!」

2人とも、うきうきとした表情で、荷物を運び込んでいる。

私は、胸が重苦しくなってきていた。

肺が苦しい。

今の今まで、煙草の匂いで、こんな具合になったことなどない。

荷物運びは、少ない荷物のおかげで、早々に終わってくれた。

助かった・・・。

ここから、離れられると、ホッとした。

しかし、変だ。

今しも、部屋の中で、チェーン・スモーカーが、タバコを吹かしまくっているのではないかと思えた。

2DKの部屋の中は、壁と言わず、天井と言わず、煙草の匂いが染み付いているように感じた

「さ、お昼ご飯、おごるわよ~」

私は、自分の服をこっそり嗅いだ。

あのひどい匂いだと、匂い移りをしているだろうと思ったからだ。

ん・・・、大丈夫、みたい・・・。

服からは、煙草の煙の匂いはしなかった。

しかし、私は、食欲が完全に失せていた。

胸苦しさが、なかなか消えてくれない。

煙草の煙が、重たく黒いドロドロの液体となって、肺の中にたまり込んでしまったような気がしていた。

「どうしたの? なんだか、顔色悪いけど」

しまった、バレたか。

「いや、あの、貧血気味なんで、はい、そんだけ」

Aさんの心配を誤魔化しつつ、なとんか、笊蕎麦を啜った。

私は、ふと、気がついた。

この2人・・・、あの匂い、平気だったのか ?

Aさんは、親子丼をにこやかに食していたし、T君は、黙々とカツ丼を食べている。

Aさんと別れて、T君にアパートまで送ってもらっている時、さりげなく聞いてみた。

「ねぇ、T君、あの部屋さ」

そこまで、言った途端、T君の顔色が、さっと変わった。

「やめましょうよ !」

「え ?!」

T君は、まっすぐに前を向いたままだ。

つらり、と、こめかみから、汗が一筋流れた。

到着するまで、T君は、無言であった。

アパートの前で、車を降り運転席のT君に、引っ越しに付き合ってくれた礼を言おうかと思ったのだが。

T君は、まっすぐ前を向いたまま、吐き出すように言った。

「Aさんが、あの部屋から引っ越す時は、僕、呼ばないでください」

「えっ 」

T君は、ぶっちぎるように走り去ってしまった。

私は、唖然としながらも、なんとなく、わかっていたような気もしつつ、自分の部屋に戻った。

そんなことがあってから、一ヶ月後のことだ。

チーフが、困った顔をして、私に聞いた。

「おまえ、書番のTと仲良かったよな」

「ああ、まあ、はい」

上司は、面倒臭そうに溜め息をついた。

「Tの奴、無断欠勤 !」

「へ ?!」

T君は、ここ一週間、会社に出勤していないという。

職場仲間が、T君のアパートに様子を見に行ったが、居留守なのか、本当にいないのか、姿を現さないし、返答もない。

「はぁ」

上司は、また溜め息をついて、頭をガリガリと掻いた。

「めんどくせぇなぁ。 警察沙汰なんか起こしてくれんなよっ !」

まあ、会社なんて、こんなものだ。

T君が、どうしているかなんて、どうでもいい。

とはいえ、私も、訪ねて行く気にはなれなかった。

そして、Aさんとも、縁遠くなった。

Aさんが、あの部屋に引っ越して以来。Aさんから、あの古びて質の落ちた煙草の匂いがしてくるからだ。

もちろん、Aさんは、喫煙はしない。

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